アニサキス症について
医師が詳しく解説
アニサキスは、寄生虫の1種です。そして「アニサキス症」とは、アニサキスの幼虫(以下「アニサキス」)が、ヒトに寄生していることを指します。
アニサキスの体表は白色で、太さ0.5~1ミリ、長さ20~30ミリと糸くずのような姿をしています。
アニサキスに寄生された魚介類(サバやアジ、イカなど)を十分な加熱処理・冷凍処理を経ずにヒトが食べることで、宿主を移します。魚介類に寄生しているあいだは内臓にいますが、魚介類が死ぬと内臓から筋肉へと移動する性質を持ちます。
アニサキス症のほとんどのケースでは胃に感染し、突然の激痛や吐き気・嘔吐、発熱などの症状をきたします。
当院では、胃カメラによるアニサキス症の診断、およびその場での摘出を実施しております。
アニサキスを食べてしまったら…
アニサキスを食べた場合も、必ずアニサキス症を発症する(症状が発症)とは限りません。実際に、発症せずに3週間ほどで体外へと排出されているケースも少なくないようです。
一方で、食後数時間後に突然の激痛や吐き気・嘔吐、発熱などの症状が現れた場合には、アニサキス症を疑います。すぐに、胃カメラ検査・アニサキスの摘出に対応している医療機関を受診してください。アニサキスを摘出すると、速やかに症状が治まります。
自然に死滅するのを待って
いてもいい?
アニサキスはもともとヒトの体内で長く生きることができません。長くて4日程度で死滅しますが、死滅後も、症状が続くことがあります。これは、アニサキスが胃の壁などに「食いつく痛み」とは別に、アニサキスそのものに対する「アレルギー反応としての痛み」によるものです。そのため4日待てば痛みが治まるとは限りません。また多くの場合、何日も我慢するのは困難なほど強い痛みを伴います。
アニサキス症の種類と症状
アニサキス症は、感染した場所に応じていくつかの種類に分類され、それぞれ症状が異なります。
胃アニサキス症
- 食事から数時間後の激しい上腹部痛
- 吐き気、嘔吐
- 発熱
- じんましん
アニサキス症のうちのほとんどは、胃に感染する胃アニサキス症です。
腸アニサキス症
- 食事から半日~数日後の激しい下腹部痛
- 吐き気、嘔吐
- 発熱
腸アニサキス症は、胃アニサキス症と比べると稀です。
悪化すると、腸閉塞や腸穿孔、腹膜炎などを合併することがあります。
消化管外アニサキス症
- 寄生した部位により異なる
かなり稀なケースです。
胃や腸の消化管を突き破り、大網・腸間膜・腹壁皮下といった部位に移動し、肉芽腫となります。
アニサキスアレルギー
- じんましん
- 血圧低下
- 呼吸困難
アニサキスそのもの(生体・死骸)に対するアレルギーです。アナフィラキシーショックを起こし、上記のような症状が現れます。
アニサキスが多い魚は?
主に、以下のような魚介類に寄生しているケースが見られます。
なお、酢漬け、塩漬けなどによってアニサキスが死滅することはありません。後にご紹介する、適切な加熱処理または冷凍処理にのみよって、口にする前にアニサキスを死滅させることができます。
- サバ
- イワシ
- イカ
- サンマ
- カツオ
- サケ
- キンメダイ
- ホッケ
- サワラ
- メジマグロ
- アイナメ
アニサキスの治療
胃アニサキス症の治療
アニサキスの有無を確認するため胃カメラ検査を行い、発見次第その場で内視鏡の先端から鉗子を出し、摘出します。摘出後、速やかに症状が治まります。
腸アニサキス症の治療
ほぼすべてのアニサキス症においては胃で発見されますが、腸での発症が疑われる場合には、一般に薬物療法により対処療法を行い、アニサキスの死滅や体外への排出を待ちます。
消化管外アニサキス症の治療
寄生した部位によって異なります。緊急の治療が必要になることもあります。
アニサキスアレルギーの治療
アニサキスアレルギーが起こっている場合には、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬、ステロイドによる治療を行います。アナフィラキシーショックに至っている場合には、エピペンや点滴による治療を行います。
正露丸や熱いお茶を飲む
という情報は危険?
アニサキスの予防法
アニサキスの死滅のためには
適切な加熱または冷凍処理が必要
アニサキス症が広く知られるようになり、誤った・不確かな情報も錯綜しています。正露丸や熱いお茶を飲むことでアニサキス症の治療や予防になるという情報もそのうちの1つです。
完全な予防法としては、魚介類を口にしないことが挙げられますが、これは現実的ではありません。現実的かつもっとも有効な予防法2つをご紹介いたします。
①適切な加熱処理
60℃以上で1分以上加熱することで、アニサキスは死滅します。
②適切な冷凍処理
-20℃以下で24時間以上冷凍することで、アニサキスは死滅します。
加熱・冷凍をしない場合
こと日本においては、加熱・冷凍をせずに生で魚介類を口にする機会が少なくありません。
そういった魚介類を食べるとき、あるいは購入・調理するときには、以下のような点に気をつけましょう。
食べるとき
- 一切れずつ、目視で確認する
- 内臓は食べない
購入・調理するとき
- 新鮮な魚介類を購入する
- 内臓を含んだ商品を買った場合には速やかに内臓を取り除く
- さばくとき、切り身にするときなど、目視で確認する