過敏性腸症候群について
医師が詳しく解説
過敏性腸症候群(IBS=Irritable Bowel Syndrome)は、腸に炎症や潰瘍、腫瘍といった病的な所見が認められないにもかかわらず、腹痛を伴う下痢や便秘の症状が1カ月以上続いている状態を指します。また腹痛は、排便をすると軽くなるという傾向が見られます。
原因については分かっていない点もありますが、自律神経の異常によって、腸の蠕動運動に異常をきたしているのではないかと言われています。大腸カメラ検査などで他の疾患ではないことを確認したうえでの診断・治療を行うことが大切です。
好発年齢は20~40代です。最近になって少しずつ過敏性腸症候群の認知度が高まっていますが、依然として「お腹の調子が悪くて学校や会社に行けない・学業や仕事に支障が出る」ということに対して十分に理解されているとは言い難く、1人で長い間悩んでいる方もおられます。突如としてトイレに駆け込まざるを得なかったり、またその症状への恐怖で外出を控えたりといったケースも見られます。
一方で、適切な治療によって症状を和らげ、以前のような日常生活を送るということも十分に可能です。スムーズに日常生活を送るための具体的な対策や考え方についてもお伝えいたしますので、症状が1~2週間以上続く場合には、お早めに当院にご相談ください。
過敏性腸症候群の原因は?
過敏性腸症候群は、ストレス、睡眠不足、不規則な生活リズムなどによって自律神経が乱れることで、腸の蠕動運動に異常をきたして腹痛・下痢・便秘といった症状とともに発症するものと考えられています。
その他、内臓の知覚過敏によるものという説、食物アレルギーの一種だという説、内視鏡でも判別できない微細な炎症の影響だという説があります。
過敏性腸症候群の
症状チェック
- 腹痛を伴う下痢、便秘
- 前触れなく、突然腹痛や下痢に襲われる
- 試験、会議などストレスのかかる場面で腹痛や下痢になる
- 慢性的な便秘が続いている
- 排便のタイミングが日によってバラバラ
- 下痢により学業・仕事に影響が出てい
- よくお腹がゴロゴロと鳴っている
- 硬いコロコロした便、形の良くない便がよく出る
- お腹の張り
- 便がなかなか出ない、残便感がある
- おならがよく出る
上記のように、腹部、便にかかわるさまざまな症状が見られます。
排便をすると症状が軽快する特徴も見られます。
過敏性腸症候群の分類別症状
下痢型
前触れなくお腹がグルグルとなり、激しい腹痛とともに下痢が認められます。また試験や会議、プレゼンなど、緊張を強いられる場面を迎えるときに決まって症状が現れるというケースも見られます。
排便によって症状は一時的に治まりますが、1日に何回(3回~数十回)も波が訪れます。腹痛・下痢に対する不安によってストレスが増大すると、さらに頻度が多くなったり、症状が強くなるといったこともあります。
便秘型よりも学業や仕事を含めた日常生活への影響が大きいため、おかしいなと感じたときにはすぐにご相談ください。
便秘型
慢性的な便秘に加え、腹痛やお腹の張りなどの症状が認められます。排便時には強くいきまなければなりませんが、コロコロとした硬い便が出るだけで、便が残ったような感じがあります。
繰り返しいきむことで、いぼ痔・切れ痔になるケースもあります。「体質だから」と放置されがちですが、お早めにご相談ください。
混合型
腹痛に加えて、下痢や便秘が混合するタイプです。交互に下痢と便秘が現れることから、交代型とも呼ばれます。
ただ、下痢の期間と便秘の期間が等しいわけではなく、通常はどちらかに偏りが生じます。突然の下痢が見られるという点では下痢型と共通しており、日常生活への影響も大きくなります。
分類不能型(ガス型など)
おならがよく出る、膨満感が続いている、ゴロゴロ・キュルキュルとよくお腹が鳴るといった、下痢型・便秘型・混合型には分類できないタイプです。
過敏性腸症候群の
検査と診断
直近の3カ月の間に、月3回以上の腹痛・不快感が繰り返されている場合、あるいは以下の3項目のうち2項目以上に該当する場合に、過敏性腸症候群と診断されます。
- 排便によって症状が軽くなる
- 症状とともに排便回数が増減する
- 症状とともに便の形状・硬さが変わる
大腸がんをはじめとする他の疾患、腸粘膜の異常がないことを大腸カメラ検査で確認し、確定診断に至ります。
過敏性腸症候群の
治療・治し方
過敏性腸症候群の治療では、生活習慣の改善と薬物療法を行います。
生活習慣の改善
栄養バランスの良い食事を摂りながら、特に食物繊維を意識的に摂取します。下痢型・混合型の場合は、脱水症状対策として、水分(冷たいものは避ける)も多めに摂る必要があります。
また適度な、楽しめる運動も有効です。ストレスを和らげ、自律神経が整うことで、症状の改善が期待できます。ストレスや過労へとつながる辛い運動は避けましょう。
薬物療法
生活習慣の改善で十分な効果が得られない場合には、薬物療法を行います。内服を開始した後も生活習慣の改善は継続しましょう。
過敏性腸症候群のタイプに応じて、腸内のセロトニンの働きを抑える薬、便の水分バランスを調整する薬、消化管の運動を改善する薬などを主に使用します。その他、乳酸菌製剤や下剤を使用することおあります。
過敏性腸症候群に
なったときの食べ物
過敏性腸症候群の治療では、生活習慣の改善の一環として、食事療法を行います。
食物繊維について
ごぼう、こんにゃく、海藻類、納豆、きのこ類、バナナなど、食物繊維を豊富に含む食品を意識的に摂取しましょう。
ただし、摂りすぎは下痢や腹部膨満感の原因となるため注意が必要です。
低FODMAP食について
FODMAPとは、発酵性のオリゴ糖、二糖類、単糖類、ポリオールの糖類をまとめたものです。
欧米では、過敏性腸症候群患者の食事として、FODMAPを多く含む「高FODMAP食」を避けることで、症状が改善されたという症例が多数報告されています。
ただ、日本人の消化管に対して、どのような・どの程度の影響を与えるのかについては、全容が解明されていません。また、高FODMAP食を避け、低FODMAP食だけを食べていればいい、というものでもありません。栄養バランスに優れた食事を摂るということが前提です。
現在のところ、高FODMAP食を食べるときには摂り過ぎないこと、その後症状が現れたときには次回から避けること、低FODMAP食の中でより自分に合う食品を見つけることなどが、現実的でありリスクを抑えられる対策と言えるでしょう。
高FODMAP食
- 小麦
- タマネギ
- ニンニク
- 大豆、ひよこ豆などの豆類
- 牛乳、ヨーグルト、アイスクリーム
- ハチミツ
- りんご、桃、スイカ
- ソルビトール、キシリトールなどの人工甘味料
- きのこ類 など
低FODMAP食
- 米、玄米
- 肉
- 魚介類
- 卵
- 豆腐
- バナナ
- ニンジン
- ジャガイモ など
消化に時間のかかる
食品・刺激物を避ける
高カロリー・高脂質の食品、コーヒーなどのカフェイン入り飲料、アルコール、香辛料などは、できるだけ控えるようにしましょう。
乳糖不耐症の方は
牛乳・乳製品に注意
乳糖不耐症の方は、牛乳や乳製品を口にすると、下痢を誘発することがあります。